中四がんプロ活動報告

ロンドンPalliative Care Programme 研修報告

研修期間 2008年3月13日~19日
参加メンバー 岡山大学 藤原 聡子(薬剤師)
香川大学 野萱 純子(医師)
四国がんセンター 小森 栄作(医師)
報告者 岡山大学 藤原 聡子

はじめに

今回、中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムのFDプログラムとしてロンドンPalliative Care Programmeに参加しSt. Christpher's Hospiceを含むロンドンの2つのホスピスと2つの病院、がん患者とその家族を支える慈善団体のマクミラン・キャンサー・サポートを訪問しロンドンにおける緩和ケアの現状について研修を行ったので紹介する。

第1日
Macmillan Cancer Support Mr.Stephen Richards(LASER Director)

マクミラン・キャンサー・サポートはがん患者とその家族を支える慈善団体である。

1911年、Douglas Macmillanの父親のがんに苦しむ姿を経験し、がんに苦しむ人々のサポートを呼びかけたのが始まりで設立された。マクミラン・キャンサー・サポートの活動について以下に示す。

1.がん患者のサポート

がんと診断されると様々な問題―治療の問題、経済的な問題、家族の問題、社会的な問題、精神的な問題―が患者やその家族に襲いかかってくる。マクミラン・キャンサー・サポートでは、専門知識をもったスタッフが患者やその家族からの相談に対応し、相談内容に応じて適切な小冊子を配布し、必要に応じてサポートグループへの紹介やカウンセリングなどを行っている。

2.マクミランナースの派遣

マクミラン・キャンサー・サポートはマクミランナースを一般病院、ホスピスに派遣しがん患者の在宅医療の支援を行っている。マクミランナースはがん患者とその家族に対して疼痛管理、症状管理、精神的サポートを行うとともにGeneral practitioner(GP)やDistrict Nurse(DN)と連携をとりながら患者が一般病院、ホスピス、在宅へ継続したケアが受けられるようにコーディネートしている。またマクミランナースへの依頼はGPやDNおよび患者本人やその家族が直接行うことができる。

マクミランナースはイギリスのFirst levelの免許を持ち、免許取得後5年以上の臨床経験(2年以上はがん看護または緩和ケアに関わる)とOncologyまたはPalliative Careの学位を持っていることが最低の条件となっている。

イギリスにはNational Health Service( NHS)と呼ばれる国が行っている医療サービスがあり、診断、治療、入院などすべてが無料で受けられる。マクミランナースはNHSの一部としても働いているためマクミランナースによるサービスに関しても無料で受けられる。

マクミランナースは高度な専門知識を持ちがん患者のサポート以外にも看護学生、看護師、医師や他の医療スタッフへの緩和ケアに関する教育も行っている。

3.チャリティー活動

イギリスではチャリティーの精神が国民の日常の生活に根付いておりマクミラン・キャンサー・サポートのようなチャリティー団体がいくつも存在し、がん患者の生活を援助するために補助金を提供するなど様々な活動を行っている。

マクミラン・キャンサー・サポートはMacmillan Mobile Cancer Unitと呼ばれる宣伝カーでイベント会場を回りイギリス国内で様々なチャリティー活動を行っている。

がんと診断されてから死を迎えるまでの間、Macmillan Cancer Supportはその活動を通じて、がん患者とその家族ががんと診断される前と同じ社会生活の中で満足した生活が送れるように支援していた。

第2日
St.Christopher's Hospice

St.Christopher's Hospiceは1967年に近代ホスピスの第1号としてシシリー・ソンダース医師により設立された。シシリー・ソンダースは看護師として働いていたが持病の腰痛が悪化して看護師を続けることができなくなり、メディカルソーシャルワーカーの資格を取得した後、さらに医師をめざしてロンドン医学校に入学し医師になった。1947年に初めて受け持った末期がんの患者David Tasmaが遺産の500ポンドをシシリー・ソンダースに託した。David Tasmaとの出会いがSt.Christopher's Hospice設立の動機となり彼の遺産が最初の寄付金となった。

David Tasmaの言葉「I'll be a window in your home」
David Tasmaの言葉「I'll be a window in your home」

St.Christopher's Hospiceはロンドン南東部に位置し、現代のホスピス運動のパイオニアとして広く知られており、ベッド数48床、約500人の在宅患者を抱えるイギリス最大規模のホスピスである。大部分ががん患者で運動ニューロン病、心不全などの心疾患患者も含まれる。またデイケアサービスも行っており、合わせて年間約2000人の患者と彼らの家族をケアし、すべてのサービスを無料で提供している。必要経費は年間約1200万ポンドで、36%をNHS、30%を遺産、22%を寄付やチャリティーでまかなっている。

ホスピスでの患者ケアは医師、リエゾン精神科医、看護師、ソーシャルワーカー(SW)、チャプレン、理学療法士、作業療法士、看護助手、代替・補完療法士およびボランティアがチームで行う。在宅療養中の患者に対しては一般病院の担当医、GP、DNおよびソーシャルワーカーとチームで連携をとりながら患者が必要とする支援を行い、必要に応じてホスピスに入院ができるよう準備している。在宅療養中の患者の症状緩和、ターミナル期のケアおよび家族の休養を目的としてレスパイト入院が一般的に行われている。

St.Christopher's Hospiceには教育のためのプログラムがあり、国内はもとより世界中からの研修生を受け入れている。ホスピスケア、在宅ケア、デイケア、家族ケア、研究のホスピスプラグラムがあり教育体制が整えられていた。

St.Christopher's Hospice
St.Christopher's Hospice

St.Christopher's Hospiceの歴史や役割についての説明を受けた後、ホスピス内を見学した。4人部屋や個室はすべてオープンルームとなっており、空室が多い印象であった。患者ケアの中心は在宅であることがうかがえた。また、リハビリのための部屋や家族で一緒に食事をするための食堂、礼拝堂などが整備され、医療スタッフの教育のための教育センターが併設されていた。デイサービスを利用しに来られていた患者さんが満足そうに語ってくれた姿が印象的であった。

第3日
Michael Sobell House, Mount Vernon Hospital Dr Humaira Jamal

Mount Vernon Hospitalはノースウッドの美しい田舎町に位置しており1977年にMichael Sobellによる寄付金で設立された。ベッド数は16床で、医師、看護師、牧師、SW、カウンセラー、理学療法士、作業療法士、ハウスキーパーからなる多職種チームにより患者ケアを行っている。収入源の50%がNHSで残りの50%がチャリティーであるということだった。

医師、SW、スペシャリストナース、コミュニティーナース、牧師、臨床心理士、理学療法士、ボランティアの総勢18名からなるMulti-disciplinary team(MDT)meetingに参加した。その日の入院患者は11名で、担当の医師が患者の現状を報告し、問題点に対して医療スタッフが意見を出し合っていた。患者はすべてがん患者で前立腺癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、直腸癌、乳癌など癌種は様々であった。疼痛コントロールや、家族(妻)へのサポートなど患者が抱える問題はさまざまであるが、日本での患者の問題点と同じであると感じた。

しかしながら問題を解決するために牧師やコミュニティーナース、理学療法士および理学療法士が積極的に意見を述べていたのが印象的であった。MDT meetingは医師が中心となりスムーズに進行していった。その後6名の在宅患者に関して、テレフォンサポートや訪問、臨床心理士が介入したなど現状が説明され、ホスピスから在宅に移行した患者の情報が共有されていた。MDT meetingは毎週月曜日に行われ、回診は週2回行うとのことであった。残念ながら回診には同行することができなかった。

Multi-disciplinary team(MDT)meetingの様子
Multi-disciplinary team(MDT) meetingの様子

MDTには薬剤師が参加していなかったため薬剤師の役割について尋ねてみたところ、薬剤師は疼痛コントロールに関して薬剤の使用方法のアドバイスやガイドライン作成に関与しているとのことであった。残念ながらMount Vernon Hospitalには薬剤師は不在で同じ敷地内のキャンサーセンターで働いているとのことであった。

第4日
Macmillan Mobile Cancer Unit

Macmillan Mobile Cancer Unitは写真で示すようにマクミラン・キャンサー・サポートの宣伝カーである。 Macmillan Mobile Cancer Unitを訪れる人は1日約60名で年間約600名とのこと。4月から11月の間はイベント会場に移動し患者やその家族の相談に対応したりチャリティー活動を行っている。訪問した3月はマクミラン・キャンサー・サポートHead Officeの敷地内で活動を行っていた。 当日の担当スタッフは10年の経験をもつSWであった。訪問者からの質問はがんの治療のこと、副作用のこと、子供のこと、お金のことなどさまざまで、400冊ものパンフレットの中から必要なものを選び出し無料で提供していた。英語のほかに中国語のパンフレットを揃えているとのことだった。

Macmillan Mobile Cancer Unit
Macmillan Mobile Cancer Unit
Macmillan Mobile Cancer Unit(head office)
Macmillan Mobile Cancer Unit(head office)

第5日
St. Bart's Hospital
Dr David Feuer(Associate Clinical Director for Palliative Care)
Dr Clare Phillips(Macmillan Consultant in Palliative Medicine)
Dr Teresa Tate(Honorary Consultant in Palliative Medicine)

St. Bart's Hospitalは300床からなる病院で東ロンドン市内に位置している難病の患者が多い病院である。ホスピスとも連携をとりながら患者治療を行っている。

病院内を案内された後、週1回行われているMDT meetingに出席した。メンバーはマクミランナース、医師、臨床心理士、SW、牧師の合計12名であった。在宅患者に関してはマクミランナースから報告がありそれに対して医療スタッフが意見を述べる形で進行した。ここでも様々な患者やその家族の問題点が抽出されそれぞれの専門家の立場から意見が述べられた。マクミランナースが中心となり患者ケアに関して医療スタッフの意見をまとめているようであった。

MDT meeting
MDT meeting

Princess Alice Hospice
Dr Andrew Hoy

Princess Alice Hospiceは1985年に設立されたイギリスで最も大きいホスピスの一つでロンドン南西部とSurreyの大部分の地域を網羅し、そこに住んでいる患者に高度な知識を持った専門家によるチーム医療を提供している。年齢、人種、宗教を問わず、どのサービスも無料で受けられるが、その資金は募金活動とNHSの保険に頼っている。

Princess Alice Hospice にはCommunity Palliative Care Teamがあり在宅患者、入院患者に対して専門的なアドバイスとサポートを提供する。Clinical Nurse Specialist は患者ケアが継続的に行われるように病院のコンサルタントや彼らのチーム、GPおよびDNと連携しながら患者ケアを行う。

 ベッド数は28床でシングルルームが22部屋と3人部屋が2部屋あり、終末期医療、症状コントロール、レスパイト入院を目的としている。またCommunity Palliative Care TeamやGPまたはDNからの紹介によりデイホスピスを利用することができる。

 臨床チームは医師、看護師、ソーシャルワーカー、牧師、理学療法士、作業療法士、セラピストおよび教育されたボランティアで構成されている。必要に応じてホスピス外の専門家に依頼することもある。

Dr Andrew Hoy
Dr Andrew Hoy

Princess Alice Hospiceには約200名の医療スタッフが働いており、医師6名、フルタイムレジスタント2名、看護師50~60名、SW4~5名、コミュニティーナース40名などであり、スタッフの中にはミュージックセラピストも含まれている。さらに、300名のボランティアが常時登録されていた。薬剤師は近くの一般病院から2~3日毎交代で派遣されており、主な仕事は薬剤の管理と処方鑑査、注射薬のミキシングであった。

Princess Alice Hospice

まとめ

今回の研修で特に印象的であったのが、ホスピスの利用、在宅看護などすべてが無料で受けられること、そして一般病院、ホスピス、在宅医療において一人の患者に対し多くの専門知識をもったスタッフが切れ目なく関わっており、一般病院、ホスピス、在宅医療の役割がはっきりしていること、また在宅医療ではGP、DN、マクミランナースの果たす役割が大きいということ、さらにイギリスではチャリティーの精神がいきわたっておりマクミラン・キャンサー・サポートなどのチャリティー団体ががん患者のサポートを無料で行っていることなどであった。イギリスの国民性、医療制度など違いはあるが、地域と連携しながら患者ケアを行う体制づくりの参考になったと思う。

最後に本研修に参加する機会を与えていただいた中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムの皆様をはじめプログラムの企画、運営に携わっていただいた方々、研修を受け入れてくださった研修スタッフの皆様に心より感謝いたします。

岡山大学 薬剤師 藤原聡子