中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアム

文部科学省 平成24年度 がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン 採択事業

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John Hopkings Singaporeにおける研修報告

研修期間:2011年2月28日~3月4日

報告者
岡山大学 枝園 忠彦(医師)

 この度、中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムの御支援により1週間のJHS研修を行わせていただきました。研修に際してこれまで疑問に感じていた点の実際の印象と、研修終了後岡山大学病院で実践しようと感じた点に関して簡単にご報告いたします。

専門医のよる分業について

 現在、私は岡山大学病院にて乳腺・内分泌外科の一員として主に乳がん診療に携わっております。乳がんの治療は、他の固形がんと比較して治療期間が長く、その期間の多くは抗がん剤や内分泌療法剤を使った薬物療法が行われます。また、乳房温存療法後の残存乳房再発抑制や骨・脳転移の病巣制御目的での放射線治療に加えて、終末期患者に対する緩和医療も行われます。日本ではこれらの治療に加えて、検診や術前診断もすべて乳腺外科医のみで行うことが多く、当院においても、放射線診断・治療医の助けはあるものの仕事の多くは我々の科だけで行っております。これは、診断医、外科医、腫瘍内科医、放射線治療医などの専門家による分業が進んだ欧米の医療とは大きく異なります。今回研修させていただいたのは、そういった欧米型の分業を行う病院の薬物療法の専門である腫瘍内科であり、「今後日本においてもこういった各科専門医による分業が乳がん診療において必要かどうか?」という点が私の第一の疑問でした。

 実際研修では腫瘍内科スタッフについて、外来診察・病棟業務・カンファレンスを見て回りました。

Dr. Lavina Bharwani
JHS外来診察室にて
Dr. Lavina Bharwani(主に乳がん担当)
Dr. Lopes
病棟回診後、病院玄関にて
Dr. Lopes(主に肺がん担当)

 結果感じたことは、「日本の診療を、必ずしも急激に欧米型にする必要はない」というものでした。カンファレンスは、外科医、病理医、放射線診断治療医が一堂に集まって議論する活気のある場であり、この点に関して当院でももう少し病理医や診断医、放射線治療医と議論する場を設けないといけないと感じました。ただ、治療を分業することはやはり患者にとっては担当医が定まらず、治療が変わるたびに新しい不安がついてまわります。いきなり乳がんの診断後や術後に初対面の腫瘍内科医に薬物療法目的で丸投げ状態で紹介されるのは少し違和感があり、できれば乳がんなら乳がんの専門医がトータルで診るのが理想ではないかと感じました。腫瘍内科医にしても流石に大体の専門領域は決まっていても、臓器別にきっちり担当医を分けられるほど人材が豊富なわけではありませんので、乳がんのみの薬物療法に関する知識で見ますと我々のようにそれだけを専門にしている医師に勝ることはないと感じました。

チーム医療について

 次に私が見たいと思ったのはチーム医療です。前述の専門医師の分業のみではなく、メディカルスタッフによる分業もやはり欧米では進んでおります。その点に関してどれほどか?見てみたいと思いました。研修では、病棟および外来、特に化学療法外来を見学させていただきました。結果、やはり進んでいるなと感じました。もちろん当院でも、メディカルスタッフによる診療支援は日本の他の施設と比較しても劣らない、非常に高い意識で専門看護師、薬剤師、理学療法士が力を合わせて医療を行っております。そういったスタッフの意識の高さは負けないのですが、設備や周囲の人々のメディカルスタッフのポジションの理解度は及ばないと感じました。当院においてもまだまだ診療は最終的には医師中心であります。看護師は知識や技術はあってもなかなか抗がん剤のルートを取ることもできませんし、治療に関してはすべて担当医に相談しなければなりません。患者も同様で看護師の話を聞いてもやはり最終的には担当の先生に言われないと納得しません。薬剤師も同様です。設備も化学療法室のすぐ隣に化学療法のためだけの調剤室があり、専門の薬剤師が常駐しておりました。

JHS外来化学療法室直結の調剤室と専門薬剤師
JHS外来化学療法室直結の調剤室と専門薬剤師

 また、もっと進んでいる点ではカンファレンスの準備や症例のピックアップ、およびカンファレンスカードの作製などは、すべて専属のスタッフが自信を持って行っているということです。毎週毎週私が多くの時間をかけて一から準備している雑用を専門家としてしっかり行っている姿を見たときには、驚かざるをえませんでした。ただ、これらの点に関してはすでに当院でも変えていこうという動きはあります。最終的には病院の運営側の配慮が必要であり、今後も力を合わせて良い方向に変えていきたい点であると感じました。

教育について

 最後に見てみたいと思うポイントは研修医の教育方法でありました。当院でもクリニカルクラークシップの考えを取り入れ、学生に有意義な実習教育を行い始めていますが、研修医の指導に関してはまだまだ戸惑いがあるのが現状かと思います。まだ専門を決めていないような、ややあいまいな状態の研修医に対して欧米ではどのように指導を行っているのか見てみたいと思いました。

 研修では、実際に病棟やカンファレンスなど多くの場所で研修医に出会い、それを指導する姿を見せていただきました。結果受けた印象は、今の自分のやり方では完全に負けており、教育としては不十分だというものでした。我々も忙しい診療の中わずかな時間で指導を行っておりますが、それはこちらも同様でした。ただし、指導するときには病棟であってもきちんとdiscussion形式でわかりやすく何度も行っておりました。時間にはルーズな印象はどうしてもありましたが、病棟の片隅で患者カルテを並べて小さな輪になりミニ講義をしている姿や、紹介患者の治療方針について研修医の考えを聞いた後きちんと指導訂正する姿は、当院ではなかなか見られないなと思いました。今後是非見習うべき点ではないかと考えました。

最後にシンガポールについて

 シンガポールは皆様御存じの通り、多民族国家であり狭い国土で中継貿易を主に行っていることから海外からの人の流れが非常に多い国であります。その多様性は欧米以上ではないかと思います。JHSに通っている患者の多くは西アジアから(主にUAE)からのがん患者であり、通常の外来(JHSはTang Tock Seng Hospitalというシンガポールの総合病院内にあります)においても使用される言語は英語だけでなく中国語やアラビア語などです。もちろん違うのは言葉だけでなく、人種間での風習や信仰さらには気質というか大きく分けた性格の違いは非常に感じられます。それに対して、JHSでは通訳が多く常在しており外来のみならず病棟回診に必ずついていたり、通訳がいなかったら周囲のスタッフで会話ができる人を探して話をしてもらったりと自然に対応しています。外来や病棟回診、また腫瘍内科への紹介患者を一般病棟へ診察に行く際に学生のように先生の後ろについて行って一番感じたことは、そういった人間の多様性とそれに対する自然な対応でした。JHSで働いている医師もトップが台湾出身でその他インド、ブラジル出身と多様であり、今後世界の動きに影響を与える可能性を感じる国ばかりであったことも海外留学経験のない私にはひとつ納得できる点でした。

Tang Tock Seng Hospital (JHSと同じ建物)のBreast Clinic
Tang Tock Seng Hospital (JHSと同じ建物)のBreast Clinic

最後になりましたが、今回いろいろな意味で、刺激を受け勉強になった心に残る1週間であったと思います。この機会を与えていただきましたがんプロ関連の皆様に心から感謝いたします。

文責 岡山大学病院 乳腺・内分泌外科 枝園 忠彦

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