中四がんプロ活動報告

John Hopkings Singaporeにおける研修報告

研修期間 2008年3月17日~3月28日
参加メンバー 山口大学 吉野 茂文(医師)、鈴木 伸明(医師)、正木 晴美(看護師)
報告者 山口大学 吉野 茂文、鈴木 伸明
研修目的 JHSにおいてoncologistによる専門的な抗癌剤治療を視察し研修することで自身がfacultyとして発展し、さらに将来的に新たな若手のoncologistを育成していくことを目的とする。
研修内容 Prof. Chang をはじめ5名のmedical oncologistのもとで外来診療、病棟回診を視察。medical oncologistのレクチャー聴講。Tumor Board Meetingへの参加など。日々の研修内容について簡単に紹介する。

Johns Hopkins Singaporeにおける「がん薬物療法研修」

3月17日(月)

コーディネーター( Erin Pung )、オペレーター ( Sinan Sanvar )、病棟看護師長 ( Elizabeth l. Morse )、外来看護師長 ( Leong Chin Jong )と研修内容につき打ち合わせを行う。岡山大学から参加されたFDワーキンググループリーダーの谷本教授も同席。その後、Prof. Alexy Chang(Consultant,CEO)、Dr. Ricardo Batac (Medical Officer)と共に病棟回診。病棟でのケーススタディ。

午後、外来化学療法の視察。(外来化学療法室はゆったりとして広く、チェアが7台、ベッドが3台設置してある。)その後、Medical Social Worker(Ivan Mun Hong Woo)より現在のシンガポールでの介護施設、ホスピス、保険診療の仕組みについて説明を受ける。

3月18日(火)

Prof. Changの回診および外来診療を視察。

John Hopkings Singapore外観

John Hopkings Singapore(JHS)は、Tan Tock Seng Hospitalの一角に存在している。
JHSの外来は1階に、病棟は13階にある。

Breast Tumor Board Meetingに参加。病理医が2人、外科医、放射線科医、 Oncologistそれぞれ3~4人出席していた。計11人の患者について治療方針を決定し、その方針に従って直ちに治療を開始していた。
 General surgery meetingに参加。計13人の消化器癌についてディスカッションし治療方針を決定。

John Hopkings Singaporeスタッフと記念撮影

3月19日(水)

Urology tumor boardに参加。9例の泌尿器系癌患者について比較的じっくりディスカッションし、治療方針を決定。泌尿器医、病理医、放射線科医、Oncologistが参加。その後、Prof. Chang 、Dr. Batacによる ICU回診の視察。前日より呼吸状態が悪化した肺小細胞癌肺炎合併患者の呼吸器管理中。実際の治療は呼吸器内科医が行っている。

午後、Dr.Hsieh( consultant 、中国系)の外来視察。中国系患者には中国語で、アラブ系患者には通訳をつけて、それ以外は英語で診察を行っていた。その後、Radio conference(放射線科とoncologistの治療のディスカッション)に参加。

3月20日(木)

Johns Hopkins Baltimoreから研修に来ているレジデント、TracyによりBaltimore症例のcase studyが行われた。原発不明癌につき学習する。その後各Dr.からProf. Changへ病棟患者につき詳細な報告があり、総回診が行われる。回診の後、Ns.を集めてdischarge planningが行われた。

午後、Prof. Chang、Dr. Bharwani ( consultant )の外来化学療法を視察。

3月21日(金)

Public Holiday―シンガポール市内観光

3月22日(土)

外来は休診のため病棟診療のみ視察。土日でも欠かさず病棟回診を行っている。Dr.が休みを取っている場合でも必ず代行医が回診をする。

3月23日(日)

Holiday―ビンタン島へ足を伸ばしました。

3月24日(月)

Prof. Chang の回診を視察。
 その後、Dr. Lopes ( consultant )の外来視察。JHSの外来では1人に30分かけじっくり診察していた。午後はTan Tock Seng Hospitalでの外来診療を視察(JHSはTan Tock Seng Hospitalの一角に存在しており、JHSのスタッフはTan Tock Seng Hospitalの患者もかけもちで診察している)。半日で約25人を見るためドタバタしている。

Prof. Changの回診、病棟内イスラム教礼拝室

3月25日(火)

Tan Tock Seng Hospitalの外来化学療法室の視察(チェアが8台あるが部屋は非常に狭い)。その後、JHSの外来でDr. Bharwani の外来診察を視察。

午後、Prof. Changの回診、外来診療を視察。

3月26日(水)

Dr. Irene Lin ( consultant)によるJHS blue letter serviceを視察。blue letter serviceとは、Tan Tock Seng Hospitalの他科からの紹介患者の診察をいう。紹介状が青いためこのように呼ばれている。この日は約20人の入院患者を診察した。13階建ての院内を各階の患者のところまで赴いて診察する。Tan Tock Seng Hospitalの入院患者で癌を患っている場合、必ずJHSのconsultantに紹介がくる。

夜、イタリアンレストランでのパーティに招かれる。(JH Boltimoreのレジデント、メキシコの医学生の送別会を兼ねていた。)

3月27日(木)

GI cancer update meeting―Dr. Lopes によるレクチャーが行われた。

「Colon ca. update」のタイトルで、ASCO GIの最新のdataを紹介しながら分かり易く解説。

その後、Tan Tock Seng Hospitalの手術室見学。Lee Sow Fong 手術室看護師長が案内。年間手術16500件、うち全麻8000件、手術室24室、現在19室稼働中。緊急手術20件/日 (うち全麻6件)。1 night stay用に73ベッド用意されている。Day surgery は60~65人/日、行われている。

その後、Dr. Bharwani の外来見学。外来終了後、約1時間を割いてbreast ca. updateをlectureしてくれた。

午後、Radio Oncologist tumor boardに参加。

カンファレンス、手術中の光景

3月28日(金)

HCC tumor board、Lung tumor boardに参加。
 午後、研修についての総括、改善点などの話し合い。
 Prof. Chang、コーディネーター(Erin Pung)、オペレーター (Sinan Sanvar)、病棟看護師長 (Elizabeth l. Morse)、外来看護師長 (Leong Chin Jong)が同席。

深夜 シンガポール発。

まとめ

1.研修先において学んだこと

・シンガポールの地理、民族、文化
 研修に行って初めて知ったことだが、マレー半島先端の島であるシンガポールは民族構成中華系7割、インド系1割(東インド会社で連れて来られた)、マレー系1割、残りの1割を白人などが占める。中国語なまりの英語は、かなり聞き取りにくい。年配の患者で中国語しか話せない患者もいたが、周囲のスタッフに必ずだれか中国語から英語に通訳できる人がいるため意思疎通の問題はなかった。

JHS病棟からの眺め
JHS病棟からの眺め

JHSの病棟はTan Tock Seng Hospitalの13階にあり、非常に眺めが良い。

また、地理的に中東からも比較的近く、最先端の抗がん剤治療を受けるため、JHS患者の実に7割がUAEなど中東から来ていた。そもそも2001年の9.11アメリカ同時多発テロ以降はアメリカへの入国が難しくなったこともあり、中東からの患者を受け入れるためにシンガポールにJHSを設立したようである。彼らに対するアラビア語の通訳は入院・外来で計7人いて診療の補助をしていた。

食事は中華系が多く値段もやや日本より安い。また都会のため日本料理を含め様々な店があり、2週間の滞在でも食事には困らなかった。

2.JOHNS HOPKINS SINGAPORE(JHS)について

JHSは、国立タントクセン(Tan Tock Seng)病院の一角に存在している。タントクセン病院は約1000床の巨大な病院で、JHSの病棟はその最上階(13階)に、外来は1階に位置している。

JHSは中東の富裕層をターゲットにprivate clinicとして自由診療を行っていた。それと同時にタントクセン病院の化学療法についても、紹介があればレジメンの調整などを行っていた。完全に化学療法に特化した科であり、consultant 5人(そのうち1人はProf. Chang)、medical officer 6人からなっていた。このうちconsultantはUSAかUKでcertificateされたOncologistであり、誰かが辞めれば本国から補充がある。medical officerはシンガポール雇いで、地元出身者2人、フィリピン人3人、ボルティモア本校1人(短期滞在)であった。medical officerは自分で化学療法の決定をすることはできず、必ずconsultantのサインが必要。consultant 5人は化学療法に関して(白血病は扱っていない)、それぞれ専門はあるものの総じて様々な癌腫に関してASCOやASCO GIの最新データをもとに、最新の治療を行うエビデンスに基づいた非常に豊富な知識を持っていた。また各診療科とtumor boardを行い、治療方針を決定していた。各癌腫に対するレジメンがきちんと整理されていた。

3.今回の研修で改善すべきと思われた点

直接医療ができるわけではなくただ見学の日々の2週間であり、日本における日常診療の忙しさに比べれば少し時間を持て余す感じがした。実際の研修も病棟と外来の往復でやや退屈であったが、Chang教授からは最後に、oncologistになるのに王道はなく、1例1例の経験の積み重ねが大切ですとの言葉を頂いた。2週間滞在することで、実際の診療(診察、会話、カルテなど)からなにかを盗むことを期待されているようである。JHSのシステムやスタッフに慣れるには一定の時間が必要かと思われ、事実2週目には気軽にスタッフに声を掛けられるようになり病棟の資料なども快く分けて頂くことができた。

JHSの研修に対する考え方は、実臨床をみて学ぶものとの基本姿勢を持っており、学生相手でもFD相手でもそれほどカリキュラムを変えたものは用意していないようである。メキシコから来た医学生と数日間一緒に研修を受けたが、英語力のために学生の方がよく理解している場面もあった。ただFD研修として、こちらからレクチャーをもう少し増やすように要望しておいた(日本人はtightな時間割が好きなことを伝えた)。また、各癌腫に対する標準治療が理解できるようなテキストが必要と思われた。(今後も研修に行くのなら何冊か日本語のテキストをJHS のlibraryに置かせてもらった方が良いように思われる。)

今回完全に化学療法に特化したチームの診療を研修して、日本でもいずれは多くのmedical oncologistを養成してJHSと同様の治療を行っていかなければならないのであろうと思われた。しかし今の日本の現状では、外科においても化学療法を施行せざるを得ない状況であり、まずは外科医である自分たち自身が1ランク上のoncologistを目指すべきと考えられた。いずれにしても世界最先端の化学療法が身近に感じられ、大変有意義な研修であった。