中四がんプロ活動報告

Grey Nuns Community Hospital, Royal Alexandra Hospital,Norwood Hospice Palliative Care, Cross Cancer Institute研修報告

研修期間 2013年2月11日~2月15日
参加メンバー 岡山大学 片山 敬久(医師)、黒田 昌宏(医師)
報告者 岡山大学 黒田 昌宏
研修目的 カナダの先進がんセンターCCIにおける乳がん患者に対する日常的な放射線治療過程の全容を理解する。
研修内容 乳がん患者に対する日常的な放射線治療過程の各過程に関わる専門職種の仕事内容の詳細とそれらのインタープロフェッショナルワークについて見学し、放射線物理士コースの研修内容として、乳がん高精度放射線治療の現状について学ぶ。

第1日目(2月11日)

8:30~9:00

Tankel医師とCCIでの研修プログラム内容の確認

Tankel医師と
Tankel医師と

9:00~12:00

Clinical instructorのChwyl氏とともに、CCI全部門と放射線治療部をまわる見学ツアー

12:00~13:00

レジデントによる症例報告会

13:00~17:00

Joseph医師と乳がん放射線治療後の経過観察外来

第2日目(2月12日)

9:00~12:00

DosimetristのDickey技師による乳がん照射計画に関する説明と討論

Dickey技師と
Dickey技師と

12:00~13:00

Dickey技師と昼食を取りながら討論継続

13:00~16:40

Joseph医師による乳がん新患に対する輪郭設定とビーム設定の治療計画の見学と討論

第3日目(2月13日)

7:55~9:30

乳がん新患症例検討会

9:30~12:30

Huang医師の乳がん新患放射線治療外来

12:30~14:00

Mold作成技師のBrennan技師と巨大乳房に対する固定シェル作成の見学と質疑応答

15:00~16:30

Tankel医師およびField物理士と乳がん治療計画について質疑応答と討論

18:00~20:30

Tankel医師、Joseph医師、Dickey技師による歓迎情報交換会。カナダ、日本の保険医療の現状と違い、課題などについて情報交換し討論

第4日目(2月14日)

9:00~12:15

DosimetristのDickey技師による乳がんに対する
 Tomotherapy/ipIMRT/VMAT(RapidArc®)による治療計画の説明

12:30~13:30

乳がん新患症例検討会#2

13:30~16:00

Joseph医師の乳がん新患放射線治療外来

16:45~19:30

Dickey技師自宅にて家族全員と、カナダと日本での一般人の生活、医療など含めて情報交換

Dickey技師自宅招待
Dickey技師自宅招待

第5日目(2月15日)

9:00~12:00

放射線治療室Unit6とUnit1にて、Thavone技師らによる乳がん新患、治療途中患者に対する実際の放射線治療の見学、技師教育の方法についての情報交換と討論

12:00~14:00

Tankel准教授とParliament教授、Severin准教授に、研修終了報告と感謝の挨拶

14:00~

片山医師と、今回の研修の意義と内容について報告書記載内容を含めて討論

Thavone技師と
Thavone技師と
Severin准教授と
Severin准教授と

まとめ

1. 研修先において学んだこと

「チーム CCI」による乳がんの放射線治療の各専門職による各過程を、それぞれの専門職について、それぞれが分担している内容を実際に見学した。その上で、各専門家が集まってチーム医療を実践している現状を見学し、作業分担の現状と問題点の有無に関して討論を行った。

以前研修を行った米国MDアンダーソン病院での放射線治療と同様に、カナダにおいても、乳がん放射線治療において日本と決定的に違う点は、乳がん治療過程について、初診から治療開始、そして治療中、治療後の経過観察の過程において、複数の職種により完全に分業化され、専門性が高いという点につきる。これは、見学したカナダ アルバータ州は、石油産出などで比較的裕福な州であり、保健医療がかなり充実しているという現状も背景にあるものと考える。

放射線技師の中では、治療技師、線量計算技師、CT計画技師、モールド作成技師などのグループ間の垣根は、米国MDアンダーソン病院のものほど高くなく、グループ間で協力し合って治療に当たっていたのが印象的であった。ただし、放射線腫瘍医と放射線技師との間の分担に関しては、互いに専門性を尊重しすぎて、日本と比べてやや分離しているようにも思える部分もあり、日本の課題としては専門職への分化分離の方向を目指すものの、その最終形については、互いの専門職の仕事内容の詳細が完全に把握できる範囲までにとどめておくことを考慮することも重要ではないかと考える。職種のなかには、他の職種からの承認と修正要求の作業が加わり、多少の上下関係がある職種集団もあるが、他の職種からはプロ集団として、その領域の内容に関しての専門性が尊敬され、不用意に口出しできない高度な専門性を有している。日本においても、当然このような職種間でのインタープロフェッショナルワークは行われているが、一言で違いを言えば、米国と同様、カナダでは各部を構成する各プロ集団の層(マンパワーとそのグループに必要な充実したインフラストラクチャー)が厚く、専門性が高度である。

乳がん治療に関わる各職種グループのマンパワーに関して、CCIと岡山大学で比較してみると、年間乳がん放射線治療患者数は約15倍、装置は3倍、放射線腫瘍医数は8倍、医学物理士グループの数は10倍、Dosimetristグループの数は3倍、Therapistの数は6倍程度である。全体のスタッフのマンパワーの規模は約3-8倍程度大きいが、患者数も格段に多いため、放射線腫瘍医一人あたりで計算すると、岡山大学と比べて、実はCCIの方がマンパワーに対する負担は大きくなっている。唯一の、そして最大の違いは、乳がん治療全体の規模の大きさと治療に関わる各集団のマンパワーの厚さと、各種の先進放射線治療装置の充実により、患者それぞれに合わせて最適化した放射線治療技術が提供でき、患者ごとにオーダーメードの質の高い治療が提供できるという、規模の大きさが生み出す「各集団の専門性の高さ」「放射線治療の質の高さ」といったカナダの医療システムの本質である「『センター化』と『家庭医医療制度』のシームレスな連携」の中で生み出された「放射線治療センター化による規模拡大によるメリット」に尽きるであろう。

乳がん放射線治療の実施過程においては、多数の承認段階の過程があるだけに専用のオンラインシステムが完備されているが、各グループは頻繁に直接出向いて「アイコンタクト」しながらインタープロフェッショナルワークしており、これが普通の「チームCCI」の乳がん医療であった。

インタープロフェッショナルワーク過程の専門分化が進んでおり、その全過程の詳細を理解するには、各グループのトップに了解をもらい、各グループの人々に受け入れてもらい、彼らにとっては説明する必要もなくあたり前となっている高度で複雑な日常の治療内容を、詳細に一から言葉で説明してもらう機会をもたなければならない。

この点で、今回5日間という短い期間であったが、以下の各グループに、子細な事前交渉と研修中の新患受診状況に合わせた随時変更の交渉により受け入れてもらい、乳がん放射線治療のインタープロフェッショナルワークの全過程における各グループの行っている治療内容の詳細を学べた非常にありがたい機会であった。

  • ― 放射線腫瘍医グループ(集学的治療過程のデザイン、初診・放射線治療中・経過観察過程の全人的患者管理)
  • ― 医学物理士グループ(放射線治療計画におけるはじめから最後まで全課程の管理)
  • ― Moldグループ(Mold作成に特化したプロ集団)
  • ― CT simulatorグループ(治療計画CT画像作成に特化したプロ集団)
  • ― Dosimetristグループ(線量分布作成に特化したプロ集団)
  • ― Therapistグループ(それまでの過程で高度に計画された内容の放射線治療を患者の体内に反映させる、一番重要な最終段階のプロ集団)

さらに、日本では乳がんに対してipIMRTの実施は皆無に近いが、カナダにおいては、家庭医による一般治療と地域ごとに公立病院として作られている専門のセンターが協力し合って医療システムを形成しており、CCIにはLiniac 8台(内2台はRapidArc、さらに1台のtrue beamを導入中)、 Tomotherapy 2台と、日本の公的機関にはあり得ない各種の高精度放射線治療機器がそろっており、患者ごとに治療に合わせた装置と治療方法を選択できるという、すばらしく充実したセンターであった。今回の研修の中で、ある乳がん新患に対して、これらの各装置を比較した研究計画を作る所を見ることができ、日本では見ることができない乳がんに対する各種高精度装置の使用方法や計画立案過程における問題点などを知ることができた。このような先端放射線治療同士の善し悪しの比較は、CCIのように機器に恵まれたセンターでしか見ることができないため、放射線腫瘍医として非常に有意義な価値ある研修であった。

このような機会を与えていただいた「がんプロFD研修システム」に感謝する。

2.それをどのように教育に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)

現在講義を担当している大学院後期課程共通科目である「インタープロフェッショナルワーク」において、来年度からはコーディネータとして担当する事になっているので、来年度以降の講義と実習において、今回の研修で得られた成果を反映させてゆく。また、学部4年目の卒業研究、大学院前期課程の放射線技術科学特別研究においても、講義、研究内容の今後の改善に有用であったと考える。

3. それをどのように臨床に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)

現在担当している岡山大学病院の乳がん放射線治療外来での治療内容の高度化のために、この4月から、今後の改善に役立つであろう、カナダでの日常放射線治療で行われている多数の優れた部分をとりいれて改善してゆく。

4. それを実行するための方策

現在、すでに岡山大学病院の乳がん放射線治療外来の責任者であり、同時に大学院における講義と研究の担当者でもあるので、あとは上記の実行あるのみである。

文責 岡山大学大学院保健学研究科 放射線技術科学分野 黒田 昌宏